【講義アーカイブ】アトミスティーク、大航海への憧憬 第1回(講師:古池美彦)[2020年10月24日]

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※ この講義のレジュメ( http://ow.ly/Jh3y30rhre4 )を配信しておりますので、適宜ダウンロードしてください。

旅はいつでも刺激的だ。それは私のような平凡な科学者にとっても同じだ。ウィーンを中心とする旧ハプスブルグ帝国領内を歩き、古い街並みの中に十九世紀の科学者の功績を示す碑が点在していることに気付いた。メンデル、マッハ、ボルツマン、モホロビチッチ、シュレディンガー…。百年以上前に活躍した彼らの功績とは?それは私たちにとってどのような意味があるのか?そして現代の科学は百年後に何を残すのか?

時は世紀末ウィーン。クリムトやシーレ、ココシュカが新しい芸術を志向し、フロイトは精神と意識に迫り、ワーグナーやロースは合理的な建築様式を提示した。マッハの科学思想はウィーンを魅了し、その影響力をバールが批評した。ボルツマンは原子の存在を信じて熱力学の刷新を試み、隣国の学派による批判に耐えた。プラハではカフカが神の不在を描き、ダーウィンとマルクスの思想が欧州を席巻する前のブルノではメンデルが遺伝の法則をひっそりと考案した。十九世紀から二十世紀への転換期を迎えたハプスブルグ帝国は、新たな世界把握を試みる文化人たちの熱気によってまさに沸騰していた。

アインシュタインの登場によって原子の存在が広く認められるようになった新世紀。原子世界を探求する実験手法が確立され、その精度は日々向上した。原子の振る舞いに対する理解も深まり、生命の根幹を担うDNAの構造までもが明らかになっていく。観察が不可能なミクロな領域に世界の存立根拠を求めたくなかった多くの知の巨人たちではなく、原子の世界には人類がまだ見ぬ大海原が広がっていると口角泡を飛ばして主張した野心家に、二十世紀は微笑んだ。

二十一世紀のいま、科学者は原子世界を航行するための艦船(巨大施設)を手に入れた。羅針盤のように我々を導く航海術(合成技術や解析技術)もある。印刷と図書館に代わる知の高速流通(インターネットとデータベース)を実現し、原子世界のアーカイブ化はますます加速している。百年前のアトミスティーク(原子論者)が憧れを抱いた原子世界の大海を、私たちは今まさに悠々と航行している。この現代のミクロな大航海は、私たちの次の百年をどこへ導くのだろう。SF界に絶大な影響を与えたバナールのように、これからの科学と世界を占ってみよう。

現代の科学者が、旅先で出会った偉人たちと時空を超えて交えた対話。その全記録を三回にわたって講義する。

第一回:十九世紀へのいざない
ウィーンを中心とする十九世紀の芸術、建築、文芸などの文化の爛熟を知る、同時期の日本が置かれていた文化的な状況についても並行して理解する。
・ハプスブルグ帝国の政治状況
・近代都市ウィーンの成り立ち
・文化人たちによる新たな試み
・幕末、明治の日本の学問と西洋文化の受容

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